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新たな物語  (同時開催 磯野迪子個展) 

 
光あれ。すると光があった。聖書では神が混沌とした世界の中で最初に作ったものが光とされている。世界を構成する要素として、光は人にとって極めて重要な要素なのだ。光によって、モノが見えることで人は色を感じ、形を識別する。アートにおいては造作が最も重要な要素であると思われがちであるが、見る人が無ければアートは存在できない。作り手であるアーティストも世界を観察することで造作する。光があること、見ることこそ、創作と並んでアートの根幹であると言っても差し支えないだろう。
竹中美幸と磯野迪子の作品、とりわけ今回の展示では、世界を「見る」観察者としての作り手のありかた、そして「光」をどのように制作に取り込むかを追求した作品に取り組んでいる。
竹中は2000年代初頭よりドローイングと並行して樹脂をアクリル板の上に落とし、光の反射と影を作品に取り込もうとしてきた。13年、そこにフイルムという新たな素材が加わる。フイルムの現像所で働いていたこともある竹中にとってそれは自然な選択であったと思う。13年の展示ではフイルムに異なる光を暗室で投影し、現像することで、ある意味、絵画的な表現を試みていた。それから4年間の試行錯誤を経て展開される新たなシリーズが今回の展示である。ここで初めて竹中は世界を観察し、アーティストとして対象を選び取り、それを光を使って作品化する表現にたどり着いた。今回のフイルムに投影されたものは無くなる家にあったカーテンや照明の影であったりする。何かを描く絵画的な表現に加え、世界を映しとる、世界の中から表現の対象としてふさわしいものを選び取る。ここに竹中の大きな飛躍が見て取れ、今後の展開がますます楽しみな作家だ。
 
アートフロントギャラリー 近藤俊郎 (プレスリリース等掲載 2017.2)
 

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