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アートフロントギャラリーと竹中美幸の出会いは2002年までさかのぼる。今も例年開催されている「代官山猿楽祭」の前身となる「代官山アートフェア2002」はギャラリーの各スタッフが、面白いと思う作家を探してきて出品してもらうという内容だった。そこに、あるベテランのギャラリストが一押し作家として連れてきたのが竹中さんだった。水彩のドローイングとまだ当時始まったばかりの樹脂の作品群。今から考えればまだ手法も稚拙だったかも知れないが、この作家のテーマ、方向性はそのころから一貫性を持っており、そのまま手法が熟達して2012年にはそれぞれの作品をVOCA展に出展するようになった。この間、その手法は頑なと言ってよいほどブレがなく、ただ作品としてクオリティが高められる流れだったと思う。その一方、私は種子を主体としたドローイングと樹脂という2つの技法がなんとか良い形で統合されないかと思いながら、作家も2012年のアートフロントの展覧会では樹脂を立体化しようとしてみたり、ドローイングと樹脂を同一の画面で表現してみたり新たな表現を目指した試みを続けてきた。
ところが、2013年になって竹中は突如35㎜フイルムをギャラリーに持ち込み、その試作品を私たちの前に並べ始めた。私たちもこの作家がフイルム現像の仕事を何年もしていたことを思いだし、この10年来の竹中美幸という作家のドローイングと樹脂と2分化した表現が試行錯誤し続けていた結果、ようやくアートして提出することのできる作品として結実したものを初めて目の当たりにすることとなった。それはフイルムに恣意的に光を露光することで色を与え、それを複数の層として重ねることで見えないはずの光、あるいは光によって初めて見えるようになるはずの何かをフイルムという物体を通して可視化する作品群である。
竹中美幸とはどんな作家だろうか。ドローイングでは目を強く閉じ、光の残像を応用して出てくる種子のような物体を描く事、樹脂のシリーズでは透明樹脂の光の陰影によって見えないものをそこに見えるようにすることであった。これまで2極化していた表現に第3の表現が加わることにより、私はあくまでも視覚的効果としての種子だとか樹脂だとかというレベルでしか捉えていないことに気づかされたと思う。竹中美幸という作家は視覚が像を結び、それが何であるかということを認識する以前の曖昧であり続ける像を表現しようとする作家なのかもしれない。
10年を経てようやく生まれたフイルムを使った新たな作品群を見ながら、この曖昧な像という現象を、別の次元でこれまで以上に曖昧ではない確固たる「もの」としての作品を提出しようとする、これまでにない竹中美幸というアーティストの意志が表明される展覧会になると感じている。
 
アートフロントギャラリー 近藤俊郎 (プレスリリース等掲載 2013.8)
 

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